地方移住したFIRE生活

糸島のデジタル未来図

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23〜35分

リード

昨年2024年末に、糸島の住民をざわつかせるようなビッグ・ニュースが一つ発表されました。九州最大のデータセンターをここ糸島に建設すべく、アメリカの企業が3000億円の投資を行う、と発表したことです。現在の糸島市全体の年間予算規模が約500億円なので、その約6倍あまりの巨額の民間投資の計画を耳にして、自分としては率直に驚きました。

データセンター(「DC」)とは、サーバなどのコンピュータや データ通信設備を巨大な箱にぎっしり詰め込んだような施設ですが、世の中がオンプレミスのシステム環境から、クラウド・コンピューティングへの移行を進めることを背景にして、またDXの進展 特にAIやIoTの普及によって、データ処理量のニーズが 指数関数的に増加している状況の下、ネトフリやYoutubeなど、動画のストリーミングやコンテンツ配信の需要増も相まって、ここ近年、世界的にDCの開発ラッシュが進んでいるようです。

これまでの一般的なDCの立地条件としては、利用者に近いほど処理応答速度が速く データ転送効率が良いため、大きな需要地の近く、つまり、大都市近郊に建設が集中しており、現在、世界のDC容量の約15%がアメリカのバージニア州北部に、7%が北京周辺に集中している とのことで、日本国内においても、DCの敷地の64%は首都圏に、25%は大阪周辺にかたまっています。

ところが近頃の傾向としては、24時間365日の安定稼働が求められるDCにとって、自然災害や紛争なんかで設備が止まってしまうとヤバいわけで、そういったリスクを分散すべき、との声が強まっているらしく、ついては DCの立地を、地方に振り向ける動きが出てきているようです。また最近では、AIの機械学習やビッグデータ処理など、大量のデータを長時間にわたってねっとり処理する用途も増えてきたので、だったら別に遠隔地でデータ処理に少々タイムラグが生じても、ことさら目くじら立てなくてもよくね、と、いう風にDCに対するニーズにも変化が生じつつあり、更にそれに加えて、なにしろDCはバカスカ大量の電力を消費するので、電力の消費地である大都市近郊よりも、むしろ電力の供給元である地方の発電所の近くに作った方が、送電ロスも少ないし、良くね、という考えも出てきて、まぁこんな感じでDCの地方分散の流れが生まれているようです。

こういった背景の下で、今回の糸島でのDC建設の話がまとまったのではないかと思われますが、報道内容によると、建設予定地の面積は12万m2ということで、東京ドーム約3つ分の広大な敷地になります。設備の規模を示す「総受電容量」は、最大300MWということで、単純計算すると、約60万世帯分の消費電力に相当します。現在の糸島市の総世帯数が4万7千なので、糸島市の全住民の消費電力を足しあげた数字の10倍以上上回る電力を、このDCという設備ひとつで消費することを意味します。のどかな田園風景が広がる一次産業中心の糸島の在り様に照らしてみると、おそろしく桁違いの規模の産業施設が、糸島のど真ん中に出現することになります。

一般的なDCの外観としては、窓の無い巨大な四角い箱状の建物がドンとそびえ立つ感じなので、あたかも「風の谷のナウシカ」の原作に出てくる「シュワの墓所」のような建造物が、おもむろに立ち現れることになるわけですが、いまのところ建設予定地としては、前原ICの南側の工業用区域の中のようですので、糸島の自然景観や観光資源をさほど損なうことにはならなさそうです。近くにはゴルフ場があるので、おそらくDCができた暁には、ティーショットの新たな目印になるかもしれず、キャディさんが「次はあの『シュワの墓所』の左端狙いでお願いします」みたいなアドバイスをするのかもしれません。

ちなみに自分として個人的に気になるのは、東京に住んでいるときにはまったく経験しなかったのですが、今住んでいる地域は、年に数回、たとえば台風などの天候不順の際に、停電になることがあり、自分はわりと、家電やら照明やら玄関のロックやら猫の餌やり器などを、片っ端からネットワーク接続して、音声操作やスマホでの遠隔操作ができるようにしており、それらが停電のせいで突然電源落ちしてしまうと、たとえその後すぐに復旧したとしても、急に電源を失うこと自体が想定外の負荷となって、接続不具合を引き起こし、いちいち再設定しなければならなくなることがままあります。この再設定作業がけっこう煩わしいので、普段から送配電会社のアプリをスマホに入れて、停電情報の通知設定をするほど注意を払っているのですが、DCが近くに建設されることによって、我が自宅周辺の配電システムにいかなる影響が生じるのかが気になっています。できればDC建設を機に、近隣エリアの電力供給システムの安定度がゴリゴリに強化され、停電とは完全無縁の桃源郷が訪れてくれたらいいな、と願っています。逆にDC向けの電力供給を常に優先されて、一般家庭向けの電気が今以上に不安定になるような事態になったら、真剣に引越を検討すると思います・・・。

さて さきほど話した通り、DCの地方分散化の動きがある中で、じゃぁなぜ 他でもないこの糸島が、今回アメリカ企業の3000億円の投資の候補地として、目をつけられたのか、という点が気になりますが、特に細かい事情は報道されてないので真相はわかりません。

いずれにしろ主な狙いはリスクの分散なのでしょうが、だったら別に九州でなくてもいいわけで、DCの膨大な電力消費の約40%は熱の冷却用に使われるらしく、この観点からだけ考えれば、むしろ北海道のような寒冷地の方がより好ましいといえます。

ただ、推察するにリスク分散の目的は、単に日本国内での分散という観点にとどまらず、アジア、北米、オセアニアをつなぐ国際的通信ネットワークにとって、日本は海底ケーブルの重要なハブになっているらしく、東アジアにおける有事の際に備えて、地政学的リスクがわりと低めである日本に、リスクヘッジのためにDCの基盤を確保しておく、というグローバルな視点での戦略もあるのかもしれません。

この文脈で考えると、大陸や半島に近い九州は候補地としてまさに理に適うことになります。一方、海底ケーブルの引込みポイントは日本全国の限られた場所にしかなく、そのうちの2つが博多湾沿岸にあることから、海底ケーブル・ネットワークとの接続の観点から考えると、福岡エリアは最有力候補になりえます。

つまり糸島は、日本国内でのリスク分散と東アジア圏内でのリスク分散のダブルのリスクヘッジの目的に合致し得る立地といえるわけです。

リスク分散に加えて、電力供給も大きな判断要素になりますが、福岡県の最西端にある糸島市は、再稼働済である玄海原子力発電所の30キロ圏内にあり、更にその西 20キロ先には松浦という九州最大級の火力発電所もあります。発電所から送られてきた高圧電流を変圧し配電する設備として、糸島市内には「伊都変電所」という既存の設備があります。ということで 糸島という場所は、DCの大容量の電力需要に対し、供給基盤がそれなりに整備されているといえるかと思います。

さらに 将来的な話として、DCの設置に端を発して、デジタル関連の周辺産業の育成・誘致を進めることを視野に入れた場合、糸島にある九州大学の周辺で現在進められている学術研究と起業活動の活性化を目指す「サイエンス・ヴィレッジ構想」の取組みと何らかの連携を図る動きも起こるかもしれません。

そんなDCがこれから先、糸島にどんな経済効果をもたらすのか に関しては、主に2つのシナリオがあると個人的には考えます。

一つ目のシナリオは、もっぱらDCからの「固定資産税」で市の財政が潤う、というシナリオです。現在日本最大のDCの集積地は、千葉県の印西市ですが、人口規模はちょうど糸島と同じ約10万人です。で、この印西市の実例に基づくと、DCは「見た目」的にはデカいものの

物流施設などのように多くの人が働く場所ではないので、雇用面のインパクトはさほど大きくないそうです。ただ、高額のデジタル関連設備が盛りだくさんに設置されるため、固定資産税がエグいことになるらしく、DCが建設される以前の印西市の固定資産税の収入は、年間約76億円だったのに対し、現在では116億円まで激増しており、今後の建設予定分を考慮すると、3年後にはさらに年間30億円の税収アップが予想される とのことで、つまりDCによる固定資産税の増加は、年間70億円程度の規模にのぼる ということになります。印西市内のDCの総受電容量は 、計画分も含めてトータル535MWなので、これをもとに単純計算すると、糸島の場合、皮算用としては、年間30億~40億円程度の固定資産税の増収が将来見込めると言えます。ちなみに現在の糸島市の固定資産税の収入は、年間47億円なので、DC一つできるだけで税収がほぼ倍近く増えることが見込まれます。

とはいえ、糸島にできるDCはあくまで実需への対応というよりも、リスクヘッジが主目的で建てられる設備なので、事業収益そのものはあまり振るわないかもしれず、地方税という形での税収はさほど期待できないかもしれません。

一方、もう一つの別のシナリオとして考えられるのは、いわば「拡大成長モデル」とでもいうべきもので、今回のDC建設をきっかけに、糸島が他の企業のDCもドンドン呼び込み、「東の印西、西の糸島」といった感じで、日本の一大DCハブ基地として名乗りを上げると共に、周辺IT産業の誘致も積極的に行い、西日本最大のデジタル拠点、いや、東アジアのシリコン・バレーを目指す、といったノリで、イキリ散らすシナリオです。

このシナリオが実現した場合の経済効果は、単に固定資産税の増収にとどまらず、法人税収入もはかりしれないものになるでしょう(※ちなみに現在の糸島市の法人住民税は年間5億円)。また広くデジタル関連産業の誘致が進めば、雇用の拡大も当然期待できるので、個人住民税の収入も大幅に増えることは間違いありません(※ちなみに現在の糸島市の個人住民税は年間46億円)。製造業と違ってIT関連産業は、騒音や排ガスを生み出す巨大な産業設備とは縁がないので、現状の糸島の自然環境や景観への影響を限定的にとどめながら、パーカー姿のおじさん達が跋扈する知識集約型の業界を中心に、経済的豊かさと街の発展を実現することが可能かもしれません。

他の地方部と同様に、糸島にも高齢化の波が押し寄せていますが、たとえば遠隔医療や自動運転などの高齢化問題の解決に資する先端技術の社会実装に向けた実証的取組みを、糸島が街をあげてリードするようになれば、まさに「里山 x デジタル の融合」のモデルケースが生まれるかもしれません。

とまぁ、2つ目のシナリオはかなり夢物語に近い話ですが、今後どのようなシナリオで開発が進んでいくかを考える上においては、やはり誰が開発主体になるか、が大事な要素になるかと思います。現在、世界のDCを運営する企業としては、やはりクラウドサービスの覇者であるAmazon(AWS)、Microsoft(Asure)、Google(GCP)の3社が圧倒的シェアを持つ一方

近頃は不動産デベロッパーなども参入してきており、今回、糸島でDCの開発を進める企業も

アジア・パシフィック・ランドグループという不動産投資やPEファンドを手掛ける会社です。

IT絡みの周辺産業を広く誘致し、糸島を一大デジタル拠点として拡大成長させるシナリオを描くとすれば、やはりその中心的登場人物として、大手IT系の会社が開発主体になった方が

実行性は高いんだろうなぁ、と思ったりします。

いずれにしろ今後数年の建設期間中においては、国内外のデジタル関連の技術者や研究者などによる糸島への出入りがいっきに増えるでしょうから、サービス産業も含めて、地元の景気が上向くことに熱い期待を寄せたいと思います。

そういえば、DC建設予定地の最寄りの駅は、「筑前前原」という駅ですが、実質的に糸島市の中心地であり、市役所も駅周辺にあるわけですが、一部の市民からは、駅名を「糸島」駅に変えてはどうか、という声があがっているそうです。これには個人的にも大賛成で、別に東京駅だって丸の内や八重洲といった地名にはちなんでないですし、筑前前原駅は、福岡空港から博多、天神、大濠公園などにつながっている福岡市の大動脈、福岡市営地下鉄空港線の終着駅なわけで、やはり「『筑前前原』行き電車にご乗車下さい」とか案内するより、「まもなく2番ホームに「糸島」行き電車が到着します」とかいうアナウンスが流れた方が、特に県外からの訪問者にとって、糸島の知名度や親近感がグンと上がると思われますし、そもそも余所から来た人間にとって「まえばる」なんて漢字の読み方は普通できません。

それよりなにより、英語圏から来た人間にとっては「MAEBARU」のように母音が連続する発音は得意ではなく、名古屋人がハイボールのことを「ヘーボール」と言うように、「マエバル」は「メーバル」と発音しがちです。今後、海外ビジネスマンの往来も増えるであろうことを踏まえるとこれを機に「チクゼンメーバル」駅をシンプルに「糸島」駅に改名することを、個人的には強く推したいと思っています。

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