地方移住したFIRE生活

福岡市の構造的な弱み

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16〜24分

リード

自分が東京からこちらに来て大きな不満を抱いたことはありませんが、一つだけちょっと残念だなと感じているのは、福岡市内の就職先がもっとあってもいいんじゃないかな、と思われる点です。

福岡市は全国有数の学生の多いまちではあるものの、就職となると、就職先の企業の選択肢が限られるため、多くの若者たちは福岡をはなれて東京などにいってしまうのが実情となっているようです。

かつて中世の時代は、博多商人を中心にアジア交易を通じて日本有数の自治都市の繁栄を築き上げていたこの土地の歴史に思いをはせると、いささか寂しい思いがします。

高島現市長は、福岡市をさらに活性化し、地域の雇用を拡大するための方策の一つとして、福岡市を支店経済から脱却させることを目指していますが、個人的には、この取組みこそ、福岡市が最優先して力を注ぐべき事項ではないかと、注目しています。

では、なぜ福岡市が脱支店経済を目指すべきなのかについて、ツラツラと以下に述べさせていただきます。

まず最初に、現在の福岡市の基本的な経済構造について考えてみたいと思います。

東京一極集中、とはいわれているものの、日本を代表するグローバル企業すべてが東京を本拠地にしているわけではありません。企業価値を端的に示す株式時価総額の数字で見ると、上位10社のうちの3社は東京以外に本拠地を構えています。

いわずもがなの第一位であるトヨタは愛知県豊田市ですし、4位のキーエンスは大阪、7位のファストリテーリングは山口です。

また時価総額上位100社を見ると、だいたい2割ぐらいが東京以外の場所を本拠地としています。やはり大阪本社の会社が多いですが、ユニークなところでは京都の任天堂、浜松のスズキ、札幌のニトリなどがトップ100に入っています。

ところが、トップ100社の中に、福岡市、はおろか九州に本拠地を持つ企業は1社も見当たりません。

九州の時価総額最大の会社は安川電機が140位の1.2兆円で、つづいて191位TOTO7600億円が191位の7600億円となっており、いずれも北九州市に本社のある会社です。ちなみに北九州市には時価総額1900億円の大企業、三井ハイテックの本社もあります。

一方、福岡市の財界のトップに君臨する企業7社が構成する「七社会」という団体がありますが、加盟企業は、九州電力、九電工(クラフティア)、西部ガス、西鉄、JR九州、福岡銀行、西日本シティ銀行の七社で、これらはみな福岡市に本社も持ちますが、顔ぶれが示す通り地域基盤の主要会社が勢ぞろいしている形です。これらと似たような感じで地域に基盤を持つ地銀や鉄道・ユーティリティ会社は九州以外の他の各地域でも見受けられます。例えば名古屋の場合であれば中部電力、東邦ガス、名鉄、名古屋銀行、といった顔ぶれになる感じです。

こういった地域密着の企業ではなく、地域性の色づけを持たない企業をここでは「一般企業」と呼ぶことにすると、福岡市財界トップメンバーである七社会の中に一般企業の顔は見当たりません。

例えば、名古屋でしたら、地域基盤の会社以外にも、日本碍子、カゴメ、メニコン、リンナイ、大同特殊鋼、メナードなどといった大手一般企業が本拠地を構えていますし、他の都市ですと、広島のマツダ、仙台のアイリスオーヤマ、神戸のアシックス、滋賀のフジテック、岡山のベネッセなどがあげられますが、このような時価総額数千億規模の一般企業の存在が、残念ながら福岡市財界の頂点グループにはいないのが実情です。

代わりに福岡市には、大手企業各社の九州における地域拠点、つまり支店が集中しています。

全事業所のうち支店が占める比率が、福岡市は全国トップレベルの32.1%であるという調査結果もあり、福岡市がいわゆる「支店経済」と呼ばれる所以です。市内の通りに並ぶ看板やビル入口のテナント一覧などには、誰もが知っているような一流企業の名前がずらりと並んでいますし、夜の中州や、週末のゴルフ場には、そんな一流企業の支店長を出迎える高級車が列をなしています。本社との頻繁な出張者の往来で福岡空港は今日も大繁盛です。

一般的に言われている支店経済の問題点としては、経済的自主性の欠如、地域経済の脆弱性、雇用機会の限定、地域資源の活用不足、税収の低下などがあげられますが、とはいえ、福岡市の人口は年々堅実に増え続けており、公示地価上昇率も全国一という具合で、「むしろイイ感じでいってんじゃん、どこがいけないって言うわけ?」、という声もあろうかと思います。

では、なぜ支店経済ではだめなのか。

その理由を自分なりの言葉を使って言い表しますと、福岡市の基本的な経済構造が支店経済のままだと、アジアのリーダー都市を目指すとか、グローバル人材の育成とか、国際金融機能の誘致とか、天神ビックバンとか、もろもろの福岡市の主要施策が、ことごとく絵に描いた餅になって頓挫してしまうリスクがあるから、だと思います。

普通、一般企業の支店という組織は、活動目的や権限の範囲がかなり限定されています。大事なことを決めるのは、遠い余所の土地にいる本社の人、ということになります。支店内で勤める総合職の多くは、3、4年の任期の前提で余所の土地からローテーション人事でやってきた人たちばかりで、窓から渡辺通りの西鉄バスの車列を見下ろしながらせっせとこなすその仕事の大半は、遠く離れた空の下の本社に対する「報連相」業務だったりします。そして、情報ネットワークの進化やリモートワークの普及と共に、「現地連絡窓口業務」という支店機能そのものが今、縮小に向けて見直されつつあります。

Amazonにとって本社のあるシアトルという街が全世界の事業戦略を練る場になっているように、福岡市が、地域的な枠組みを超えたグローバルな経済活動に関する重要な意思決定が行われる中心地にならない限り、福岡あるいは九州という限定的な土地の市場に紐づいたローカル拠点都市の域にとどまってしまいますし、そのローカル拠点というモデルそのものものの存立もかなり危うくなってきています。これでは、アジア経済圏をけん引するリーダー都市として発展することは、なかなか見込みとして厳しいのではないかと正直思いますし、それどころか、人口減少が不可避の日本国内の地方市場に引きずられて、雇用機会はますます縮小することはあっても、増えることはないといえるでしょう。

人材や資金や情報は、究極的には意思決定がなされる場所を目指します。ビジネスを真剣に興そうとする人は、仲介や取次や連絡係などを飛び越えて、意思決定を行う当事者と直接の接点を求めます。そのようにして、ヒトやカネや情報が集まる場が生まれ、そこでは創造的な活動や起業が活発化します。そして、とりわけ大企業が事業を興すと、周辺産業にすそ野が広がることもよくあります。重要な意思決定がなされる企業の本拠地がある場所と、そうではない場所との決定的な差はこのようにして生まれると言えます。

とはいえ、大手一般企業の本社機能を福岡市にこれから引っ張り込んでくることは簡単ではありません。

福岡市の施策としては、MICE、つまり国際会議や展示会などのビジネスイベントの開催を積極的に後押ししようとしています。たしかにMICE振興によって、福岡市の国際的知名度がアップしたり、あるいは経営者やビジネスパーソン同士の交流やネットワーキングを促す場を提供する効果があることは間違いありませんが、福岡市がMICEの開催場所になったからといって、即、福岡市がビジネス拠点として発展することにはつながりません。毎年ダボス会議が開催されるからといって、別にダボスというスイスのリゾート地でビジネスが盛んになることはありませんし、GAFAMやNVIDIAが本社をダボスに移すという話は聞いたことがありません。また、福岡市という土地の知名度が上がったからと言って、それが即、企業誘致を促す経済合理性のある動機づけにはなり得ません。

「よそから引っ張ってこれないなら、ここで一から作ればいいじゃんか」というのが、たぶん福岡市によるスタートアップ支援の根底にある発想かと思いますが、スタートアップ企業で事業化まで漕ぎつけるのはごく数%程度の確率でしょうし、しかも安定した雇用や税収をもたらす組織基盤を築くには相応の年月がかかります。また、もしうまく立ち上がったとしても、福岡市の今の経済構造が変わらない限り、その企業は更なる成長を求めて、世の中で意思決定が盛んにおこなわれる東京などの別の場所に移転することを検討するかもしれません。もともと福岡生まれのソフトバンクが東京に本社を移した例にも見て取れる通りです。つまり支店経済のままだと、たとえ優秀なスタートアップ企業が生まれても、その場に根付かないおそれがあります。

とどのつまり、脱支店経済とは、言い換えると、福岡市の経済構造を変革して、福岡市を重要な経済的意思決定が行われる『真ん中』の場所にトランスフォームしていく試み、だと言えます。難易度は高いですが、もしこれがうまく進まないと、ちょっと辛辣な言い方になりますが、「天神ビッグバン」や「博多コネクティッド」などの大規模都市再開発や、MICE振興のための会場整備などは、「箱もの」行政が空中分解する典型的なパターン、つまりコンテンツの空洞化によるハードの不良資産化をもたらすリスクがあるのではないかという心配が正直拭えません。

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