自分は今、住み慣れた東京の雑踏を離れて、静かな田舎で一人暮らしの生活をおくっているわけですが、「田舎」と言っても、それは東京と比べたらということであって、糸島は政令指定都市・福岡市のすぐ真隣に位置する人口10万人の都市ですので、これを「田舎」と呼んでしまうのはいささか躊躇いを感じる訳ですが、一言で「糸島」といっても、かつてあった複数の市町村が合併して出来た自治体なので、けっこうそれなりの広さがあり、管理区分上、糸島市は全部で15の行政区に分割されています。
その中で、今自分が住んでいるのは、「引津エリア」(引津校区)と呼ばれる、糸島半島の西側に広がっている地域で、面積の正確な数字は分かりませんが、地図上の目測ではだいたい50平方キロ前後なので、ざっくり東京の港区と渋谷区と目黒区を足したぐらいの広さです。
この引津エリアは、かつてあった「小富士村」と「芥屋村」という2つの村が合体してできたもので、農村集落と漁村集落があり、冬場は海辺の牡蠣小屋が多くの観光客で賑わい、「芥屋の大門」と呼ばれる柱状節理の洞窟をはじめとした観光資源にも恵まれ、高台には別荘用の邸宅も集まっています。
ただ、糸島市全体では人口増加傾向にあるものの、この引津エリアに限って言えば 過疎化が進んでおり、『人口減少や高齢化が著しく、地域コミュニティの維持が懸念』される、と、糸島市の公式な資料の中でもはっきりと述べられています。
実際にそこに住んでいる立場から言わせてもらうと、ウチのまわりには驚くほど、日用品を買える店がありません。自分の知る限り、引津エリア全体において、日常の買い物ニーズを満たせる一般的なスーパーはほぼ存在せず、コンビニすら1件もありません。
港区と渋谷区と目黒区を合わせた広さの土地がマルっと、コンビニが1件もない空白地帯になっている、という状況は、ドミナント戦略でコンビニが同一区画に林立する光景を見慣れている都市部に暮らす人には想像もつかないと思いますが、自分の住む家から最も近くのコンビニに行くまでの道のりは、東京で言うと、渋谷から六本木を経由して東京駅まで行くのとほぼ同じ距離で、それが最寄りのコンビニまでの「片道」となります。
公共交通機関はほぼ無いに等しく、自転車で行ってやれないことはないですが、やはり自家用車が必須の生活環境であります。
現在、日本人の38%以上は単身世帯となっていますが、高齢で運動神経も鈍くなり車の運転がおぼつかなくなっても、このような生活環境に独りで暮らしていると、免許を返納することは、自力で生活することを事実上放棄することに近いといえるわけで、引津エリアの話にとどまらず、日本全国各地の過疎エリアにおいて、「交通弱者」や「買い物弱者」にいかに手を差し伸べるかは、とても重要な地域課題になっていると思います。
人口減少が不可逆的に進んでいく日本において、地方部の過疎地域の生活インフラの維持は、地方行政の財源も限られる中、非常に難易度の高い問題だと言えるわけですが、その解決策の一つとしては、ある程度人口の集積している地方都市への住民移転を促し、コンパクトシティ化を進める、というアイディアがあり、行政コストを抑えた効率的な社会運営の在り方として、一定の層から支持を集めていると思います。
一方で、過疎エリアからの住民移転を推し進めることには、住民感情の問題にとどまらず、国家戦略上の重要な問題点もあげられるため、あくまで過疎地の人口維持を優先すべきだ、という意見もあります。過疎地の人口維持をはかるべきだ、とする主張は、主に以下の4つの論拠から成り立っています。
まず一つ目は「国土の保全」です。
人口がゼロに近い地域では農地や山林が荒廃し、土砂災害や河川氾濫のリスクが高まります。また災害発生時には、人材や設備の不在により、災害現場での初動対応や救援活動の遅れ、あるいは被害拡大のリスクが高まります。
2つ目の理由は「安全保障上の意義」です。
日本は海外線が長く離島も多いわけで、住民の存在が領有権の実効支配を裏付ける証拠となり、外国勢力による不法占拠の既成事実化を防ぐ役割を果たします。また人が常駐することで、不審船や不審者、密漁・密輸などの異常事態を早期に発見できる「人的センサー」として機能することも期待できます。
3つ目の理由は「農林水産業の保持」です。過疎地のほとんどは一次産業の生産拠点になっており、食料安全保障に寄与する社会的価値がありますし、また森林管理は水源涵養や土壌保全にも不可欠です。
最後に4つ目の理由は「文化的価値の保全」です。
多くの地方部には独自の祭り、建築様式、農林水産技術などがあり、人口消滅はすなわち、貴重な無形文化財の喪失に直結することになりえます。
こういった観点から過疎地の人口を維持することには、多角的な意義が認められるわけですが、さりとて残念ながらそのために、無尽蔵に行政コストを投入できるわけでもありません。
そういった点も踏まえた上で、有効な現実解になり得るのではないかと、最近個人的に考えているのが、コンビニエンスストアの過疎地展開です。
全国各地の地方部においては、過疎化の進行と共に、交通、医療、金融、物販などの、「生活インフラ」の縮小・撤退が深刻化する中で、コンビニは民業の立場から、新たな「地域の生活インフラの受け皿」として機能し、単なる小売業を超えた「地域拠点型サービス複合施設」へと進化する可能性が見えています。
例えばローソンは、今年の7月に北海道稚内市内で3店舗同時出店することを発表し、本件は単なる小売り店舗展開ではなく、自治体との連携も通じた地方創生モデルへと昇華させた地域密着型の取組みであるとして紹介されました。稚内以外にも北海道の厚真町や長野県や和歌山県など複数箇所でも同様の取組みが進められているようです。
具体的な内容としては、撤退したスーパーの跡地などを利用して、コンビニを地域社会の生活インフラのハブ拠点に発展させる、というコンセプトですが、地元民が徒歩や自転車で移動可能な行動圏内に出店し、生鮮食品や日用品を幅広く取り扱う小売店サービスを提供することで、過疎地の「買い物弱者」に寄り添うと共に、地元の農産物や特産品も扱うことで地元産品の販路を広げることにもつながります。
既に一部地域では導入済の通り、住民票や印鑑証明の発行などの行政サービスが利用できるほか、コインランドリーを併設したりフリースペースを設けるなどして、地域交流促進の場を提供したり、あるいは災害発生時には、非常電源を確保した緊急避難所として機能することも期待されています。近い将来には医療や介護分野との連携を進めて、オンライン診療と連動した処方薬の受取りや、高齢者見守りサービスの拠点機能を果たすことも考えられます。また物流コスト高騰を受けた宅配サービスの縮小も将来的に見込まれる中、コンビニでの宅配便の受取や発送はより一般化するでしょうし、行く行くはドローン配送が社会実装された際に、とりわけ過疎地においては、コンビニは最も現実的な配送拠点の候補になるかと考えられます。
引津エリアの現在の人口は4,851人で、コンビニ出店の採算ラインをクリアする人口規模としては、ギリギリかもしれませんが、完全に民間任せではなく、自治体においても是非、固定資産税軽減などの優遇措置を検討いただくと共に、おそらく現行の都市計画上は市街化調整区域として出店の制限がかかっていると思われるので、その規制緩和を進めて頂くなどの公的支援も含めて、現状、コンビニ真空地帯と化している過疎化が進む我が街、引津エリアにおいて、国土保全を含む高度の国家戦略にも寄与する地域拠点型サービス複合施設として、コンビニの複数同時出店を実現させてはくれまいかと願ってやみません。
以上、ウチの近くにコンビニができたらいいなという個人的願望を背景にした渾身の屁理屈をこねさせていただきました。
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