地方移住したFIRE生活

糸島をひたすら数字で解説

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15〜22分

リード

今回は自分が移住した先である糸島がどんな所かについて、個人的バイアスを極力排除して、数字を用いたエビデンス・ベースドな説明を試みたいと思います。

さて「糸島市」という行政単位が誕生したのは、2010年1月1日の市町村合併によるもので、ということは、糸島市の年齢は、今年(2025年)でまだティーンエイジャー、ということになります。もし家の押し入れに昔の学校の地図帳が残っていて、「ソビエト連邦」なんていうのがまだ記載されているような年代物だと、間違いなく「糸島市」という呼称の都市は当時まだ存在していないことが確認できます。

糸島市という名の自治体としての歴史は確かに新しいですが、今糸島市と呼んでいるこの土地の歴史はずいぶん古い時代にまでさかのぼります。どれくらい古いかというと、「蒼天航路」の舞台となった時代の魏志倭人伝に記述されている古代国家「伊都国」が現在の糸島平野東部にあったと考えられており、これまでに大小約60の古墳が見つかっています。中でも、古墳時代よりも古い弥生時代に築かれたと考えられる平原(ひらばる)遺跡からは、直径46.5cmの日本最大の銅鏡をはじめ多数の出土品が発掘されており、それらは糸島市内の伊都国歴史博物館に常設展示されてあります。

銅鏡の数は40枚。それに加えて古代のアクセサリー類も多数出土しており、これらはすべて国宝に指定されています。ショーケースの中に一定間隔でずらりと並べられた出土品ひとつひとつがすべて国宝で、しかもそんな国宝の陳列されたショーケースが、まるでRolex正規販売店の中のように何列も連なっており、これはなかなかの見物です。

朝起きて「ちょっと今日は国宝をたくさん見てみたいな」という気分のとき、まさに伊都国歴史博物館はぴったりの場所と言えるでしょう。

さて、糸島市発足の2010年に話を戻すと、その時点での市の人口は、98,435人でしたが、その後着々と人口を伸ばしており、2023年3月末時点では103,562人となっています。

市の面積1平方キロあたりの人口密度は480人となり、隣の福岡市の人口密度が4,800人なので、ちょうど10分の1ということになります。福岡市民10人がひしめくスペースと同じ広さを、糸島市民なら一人で独占できる、という単純計算になります。ちなみに東京23区の人口密度は1平方キロメートルあたり15,708人という異常な値なので、かつて自分がそんな過密な環境でよく平気で暮らしていたなぁと、なんだか信じられない気分になります。

一方、糸島の人口増加は今後もつづくと予想されておりますが、増加の規模としては、糸島市の予想では2030年に106,000人というレベルで、現在とそう大きく変わるものではありません。これは行政の基本方針として、今後農地をつぶしてドンドン宅地化を進める、といった類の人口増加策は特に考えていない、ということの現れだそうです。

人口増加の中身に目を向けると、2022年の調査では、社会増加率が+0.64%で、自然増加率は▲0.55%という結果を示しておりまして、つまり、糸島市の人口増は外からの移住者が主因ということになります。

で、人口密度は低いものの、宅地用の土地が市内にふんだんにあるかというとそうではなく、土地の用途制限などによって、自分自身の場合もそうでしたが、移住者にとって住居用の土地探しは決して簡単という訳ではありません。また、糸島市の持ち家比率は78%で、全国平均 61.4%を大きく上回っており、賃貸物件の市場規模は限られています。

一つの狙い目として、空き家をリノベすることも考えられますが、2018年の調査では、空き家比率は全国平均13.6%に対し、糸島市は10.7%となっており、空き家物件の供給量がさほど多いわけではありません。また、空き家の多くは、古い農漁村エリアに見受けられるのですが、昔ながらの住居というのは、とかく敷地が狭かったり、天井が低かったり、駐車スペースへのアプローチがものすごく狭まっていたり、建て直す際は建蔽率がネックになったり、とか、ちょっと何かと難のありそうな物件も少なくありません。

ちなみにですが、糸島市内の道路では軽自動車が非常に多く走っておりまして、軽自動車であるにもかかわらず、右左折する際に、まるで大型トラックのように、曲がる方向と反対側にいったん逆ハンドルをあてて大きくふくらみながら旋回する車が時々見受けられるのですが、自分の推理としては、自宅の駐車スペースへの進入口が狭くなっていて、そこに逆ハン当てて頭から突っ込むことをいつもやっているせいで、それがクセになってしまった人が多いのではないか、とにらんでいます。

さて、その軽自動車の運転席に目を向けると、高齢者の運転者が非常に多く見受けられますが、それは生活の足を車に頼らざるを得ない事情があるからで、つまり、ここ糸島も地方にありがちな車社会になっております。2019年に行われた公共交通の充実度に関する市民満足度調査の結果、70.2%の市民が公共交通の整備状況に満足していないことが明らかになりました。これからますます高齢化が進む中、将来的には交通弱者のさらなる増加が心配されるところであります。

一方、糸島市の特色としては、福岡都市圏17自治体の中で、福岡市を除くと、市内の就業者比率が54.3%と一番高い数字になっています。つまり福岡市などに通勤するのではなく、糸島の中で働く人が比較的多いと言えます。福岡市のベッドタウン化している福岡市近隣のサテライト都市とは事情が異なっています。

また、高齢者や女性の働く人口も県内トップレベルで、たとえば、0~2歳の子をもつ夫婦における妻の就業率は59.7%と県内一位になっています。

一方、所得レベルは他の近隣自治体よりも低い水準となっており、2019年の調査では、市民一人当たりの平均所得は2,770千円となっており、隣の福岡市と比べると約1割程度低い数字になっています。

これらの理由としては、糸島の主要産業が農業であることで大方説明がつくと思います。糸島の一人当たりの農業産出額は、県内一の数字となっていますが、農業は世帯家族総出で従事している場合が多いので高齢者と女性の就業率が高くなり、また農業のもつ社会的価値はさておき、その収益性は他の産業に比べると相対的に低いのが日本の農業の実情ですので、所得レベルが低めの数字になってしまいます。

その糸島の基幹産業である農業においても、農家の数は減少傾向にあり、2000年の時点での農家数は2870戸であったのに対し、2020年には1787戸にまで減少しています。また、農家の約6割においては60歳以上の高齢者が担い手となっており、後継者不足と高齢化が顕著に進んでいる状況下、今後、農業の持続性をどのように支えていくかは糸島市にとって大きなテーマの一つと言えます。

以上駆け足でしたが、いくつかの定量的な視点で切り取った糸島のスナップショットでした。

あくまで市民の主観的な暮らしの満足度は、こういった機械的な数字とは別の次元に存在すると思います。また、これらの数字からいくつかの課題点が浮かび上がってきますが、課題点とは、別の見方をすれば将来の「伸びしろ」とも言えます。いわゆる日本の「失われた30年」問題の原因の一つとしては、東京が都市としての伸びしろをとうに失っているにもかかわらず、相も変わらず全国から東京に人が集中しつづけたせいだ、という意見もあるようですが、だとすると、これからの日本経済の伸びしろは、東京ではなく地方に求めるべきといえるのかもしれません。

ここから先は個人の意見ですが、糸島には、暮らしの満足度を更に高める伸びしろが大いにあるように感じています。ただ、それを考える上においては、糸島市単独ではなく、もっと視野を拡げ、糸島を福岡都市圏の一部と位置付けた上で、福岡都市圏全体の発展という大きな文脈の中で、地域の特徴づけや住環境の最適化、そして更なる成長を目指す街づくりが必要なのではないかと思います。

一次産業は今後もひきつづき糸島の柱となるでしょうから、たとえば、福岡市内の都市生活者向けの週末農園のサービスを充実させるとか、地元産の食材を使ったレストランと宿泊施設を併設した週末滞在型ブティックホテルを積極的に誘致したり、とか、とにかく現状の農地ゾーニングの維持と農業収益の底上げをはかることがなにより重要ではないか、と個人的には考えます。

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